空の境界 オールナイトイベント2 レポート


※ブログタイトルから外れた内容ですが御容赦を


昨年末、2007/12/30 24:00〜 池袋テアトルダイヤにて行われた、空の境界 オールナイト2のトークイベントレポートです。

トーク第一部
ゲスト:あおきえい監督、近藤光P、太田克志(講談社)

オールナイト1にも参加した人は?との質問には10人くらいが挙手。

オールナイト参加特典のポストカード、太田氏曰く「講談社の経費を流用して作りました(笑)何でも日本に数台しかない特殊な印刷機を使って作ったもので銀が綺麗に印刷できるとのこと。イベント限定で数百枚しか作っていないが、かなり原価は高いもの、らしい。

このイベントのために地方から来た人は?との質問にも10人くらいが挙手。

進行は、観客からの質問に答える方式。第一部ではあおき監督が来ているので
第一章中心で。
以下、あ:あおき監督、近:近藤P、太:太田克志氏

質 : 橙子が持っていた飛び降りした女子高生のプロフィールの写真が妙に可愛くて、小林尽先生のイラストに似ていると思っていたのだが、第二章のパンフを見たところ小林尽先生がコメントを描いていたのでもしかして原画を描いていたりするのでしょうか

あ: 偶然似てしまったというのが正解。
一章の時点では二章のパンフに小林さんが寄稿されるとは知らなかった。
あの写真の絵は、簡単な設定画を元に原画さんに描いてもらったもの。
小林さんは実は一章の打ち上げにも来てらしたのだけど僕は全然知らなくて後で言われて知りました

太: 小林さんは武内崇さんと昔から知り合いで、パンフへの寄稿はその辺の縁です。
女子高生のデザインについては、奈須さんが『あんな一瞬しか出ないのに何であんなに可愛いんだろう、もったいない』と言ってました

質 : 最初に式が巫条ビルに乗り込むシーン、一階でナイフを抜くシーンがあるが、そのあとエレベータで上の階に上がった後、もう一度ナイフを抜いたような効果音が入る。あれはどういうことか

あ: あれは手に持ったナイフを構える音のつもりで、式とナイフは割とワンセットのようなものなので、式が臨戦態勢に入ったことを印象づけるための演出です


質 : 着物キャラのアクションシーンが多いアニメということで色々と注目していたが、原作を読んでいるときから気になっていたのだが着物の帯が、皮ジャンを着るとき邪魔になるような気がする。そのあたりどう考えていたか

あ: 着物のことは全く知識がなくてよく分からなかったので、資料をまず集めてもらって、それを元に作画監督の須藤さんとああでもないこうでもないと考えて決めていった

近: スタジオに、着物ばっか好きな奴とか銃器にやたら詳しい奴とかがいるんです。そういうのに話を聞いたりして

あ: 例えば着物用の上着というのも実際にあるんですが、着物で上着を着るときというのは本当は袖を丸めるのだけど、あのシーンはこれから式が巫条ビルに乗り込んで行くぞっていうシーンなわけで、そこでいきなり袖を丸め始めたりするとテンポがどうしても悪くなってしまう。
なので、リアリティを追求する上ではまずいと思いつつも、そこは敢えて嘘をつかせてもらってます

太: 今のは非常にいい質問だと思う。実は三章のパンフで藤島康介先生のコメントが載っているのだけど、同じような質問をされていますのでそちらも読んで頂ければと

太: 三章といえば今日ちょうど三章のアフレコだったわけですが、一緒にスタジオ入りしていた奈須さんが『能登さんが本当にすごかった』とコメントしていました。あと、『能登さんは本当に可愛いです』とも

近: アフレコのときは座る場所が必ず決まっていて、僕の左が必ず奈須さんなんです

質 : 最初に橙子の部屋が映るシーンで、長い尺でゆっくりPANしているシーンがあったのだが、あれは何かを意図したものなのでしょうか

あ: あそこは別に画面Fixでも良いのだけど、会話の内容を考えたときに橙子はメガネを外す前なので口調は軽いのだけど一応人が死ぬ話、不吉な話をしているので、その辺の雰囲気が出せればいいなと思ってやっている。
演出の趣味のレベルなんですけど、画面のリズムもありますし

近: 伽藍の洞については美術監督から毎回『伽藍の洞は何カットあるのか』と言われる。それくらい描くのが面倒で嫌らしい。

今出ているアニメーションノートという雑誌を見てもらうと詳しく書いてあるのだけど、スタジオに今、伽藍の洞のセットが作ってある。

あれも、もうそろそろ壊さないと来年の新人が入ってきたときに席がなくなってしまう。

あれは、大工さんを呼んで、あおき監督やまだ発表してない他の章の監督も全員集めて作ったもの

あ: 物が雑然と置いてある雰囲気を出したかったのだけど、適当に置いたように見せるのがすごく難しくて。

意図的なものが表れないようにしないといけないと思って一日ぐらいあーでもないこーでもないと悩んでいた覚えがあります

質 : 式がビルの上に浮かぶ霧絵と幽霊を見上げたとき、数えてみると9人いるんですが

あ: あれは分かりにくくて申し訳ないんですが、まず霧絵がいて、その周りに8人浮かんでいるわけですが、あの霧絵は二重存在として浮いているわけですよね。

一方で、霧絵が最後に死ぬことで9人目になってしまうと勘定が合わなくなってしまう。

そこでアクロバティックな解釈なんですが、あの中には二重存在の霧絵以外にももう一人、病院の霧絵がいることにしています。

霧絵の病室のシーンで、写真立てが置いてあって学生時代の霧絵の写真が写っていますが、あれと同じ姿の幽霊、高校時代の霧絵が、よく観てもらうと八人の中にいるのが分かると思います。

そんな風に、脚本の平松さんと辻褄を合わせるためにあーでもないこーでもないと考えました

質 : 橙子のタバコのマークが大極図マークだがあれはどういうことか

あ: あれは原作だともう少し先、矛盾螺旋の中で、橙子のタバコが台湾製でうんにゃらかんにゃらという会話があるんですが、それで、あ、台湾製のタバコなんだ、と思ったのだけどいざ調べたら台湾製のタバコというのが見つからなかった

近: 「エンドロールでタバコ博物館ていうのがあるけど、あそこで相当調べたんですよ。でも見つからなくて

あ: それでオリジナルで作ろうということになって、撮影の人に十何種類デザインしてもらったうちの一つを使ってます。

なので、架空のデザインです

質 : 一人一人の小説を読んでいるときのイメージというのは違うと思うが小説を映画にするということに対してどう思っているのでしょうか

あ: 小説を読んでイメージした場面やキャラの感情、あるいは直死の魔眼、巫条ビルってなんだろう、といったことは人それぞれ違うと思います。

僕たちスタッフでももちろんそうなので、その辺のコンセンサスを取っていくところがまず最初でした。

僕は監督という立場なので、そういう意味ではイメージは僕の物が一番反映されているとは思うが、これでいいのかとは作っている間ずっと不安だった。

それでも、自分たちの結論としてはこういう感じではないかなと思って作りました

近: 元々この話をもらったとき、今のアニメで表現できる水準というのもあるし、小説と一言一句変えないことが映画化ではないだろうというという考えもあった。

だから巫条ビルにしても必ずしも正確に小説内の描写に合わせているわけではない。

それよりも、観終わったあとの印象が、読了後の印象と違わないのがいいことなんじゃないかという考えで作っています。

そのために、まずうちのスタジオでどこまで出来るかという水準を見極めるところからスタートしている。

アニメを一本作るには大体200人くらいの人数が必要で、社内だけで言うと70人くらいなのだけど、その70人の中でどれだけイメージを統一できるかというのが鍵になってくると思う。

スタッフ間でイメージを共有するため、常に雑談などしながらコンセンサスをとっていった

質 : この作品では非常に光の効果が強くて、画面自体の奥行きが感じられないような絵が多かった。全体的にぼんやりした印象が強まる画面作りで、光の描写をあそこまでにじませるというのはあまり観たことがないのだが、どのような演出意図があったか教えて下さい

近: それについては、今日は撮影監督に来てもらっているのでこのあとその関係の話をしてもらおうと思うが、空気感ということについては我々は常に試行錯誤を繰り返している。

アニメというのは皆さん御存知だと思いますがA4の紙の中で表現されているわけで、その紙の中でどう空気感を出すかという勝負。

これがフィルムだった頃は、セルとセルの間の空間というのがあるので、自然に空気感が出ていたのだが、今は全てスキャナ撮りしてしまうのでそれはできない。

なので、どう表現していくかについては日々考えている。

撮影監督の寺尾君はこの作品が始まってからアパートを引き払って会社に住んでいるような状態。

どうせ部屋には帰らないから家賃がもったいないんでと言われてOKしたんだけど


ここでトークショー第一部は終了。

最後にあおき監督から一言。


あ: 昨日のトークショーよりマニアックな質問が多くて、本当にこんなんでいいのかと思ってしまうのですが、第二章については、僕より全然ベテランの野中監督という方が演出されていて、尺も一章より十分くらい長くなっていますので、このあと上映されますが、楽しんで観て下さい





第二章上映ののち、トークショー第二部開始。

ゲスト:近藤光P、寺尾撮影監督、太田克志(講談社)

以下、寺:寺尾撮影監督、近:近藤P、太:太田克志氏

近: 昨日のイベントでは監督の野中さんに来てもらったんですが、野中さん、ぶっ倒れまして、急遽撮影監督の寺尾君に来てもらいました

寺: この作品に関しては、監督の趣味がありつつも、僕の趣味を結構出させてもらっています

近: 皆さん御覧になってもらってるかどうか、この作品のパンフでは毎回原画解析のコーナーというのがあるんだけど、二章ではそれが黒桐が林の中を逃げ回るシーンがそれにあたる。このシーンについては演出もかなり力を入れていた

寺: 元々の演出プランではあのシーンは真っ黒な闇の中を逃げ回るというのを考えていたのだが、月明かりを上手く表現できないかとか、あとは葉と葉の間から、雨がきらめいて見えたりすると綺麗じゃないかとか、それから僕はスキューバをやるんですが水中で、上から射してくる光の筋がとても好きで、ああいう感じで竹と竹の間から月明かりが射してくるような表現をしたいとか、そのように色々演出を盛り込んでいます

近: これもいつも悩むところなんだけど、暗い絵っていうのは結構つぶれてしまう。

テレビ作品と今回の大きな違いとして、今回はフィルムではなくDLV上映なので、ここの劇場みたいな上映機材でもすごく綺麗に映ってしまう。

こうやって、ハードの水準が上がればあがるほど僕らが一生懸命作りこんだ空気感というものをどんどん綺麗にしてしまうんでその辺が悩みです。

透過光にしてもマスク一枚くらいじゃ全然ダメで、マスクを三段くらい重ねたりしてる

寺: 二章の冒頭の、雪が降る町を結構広い視界で捉えているシーンなども、あれは、まず1m四方の空間にはどれくらい雪が降るかというのを考えて、ロングだとそれが何十倍の箱になるわけだからどれくらいになるか、と考えて、数千万の雪を降らせたあとに空気遠近の効果を考えて消していく、というように作っている


質 : デジタル表現の限界を感じることはありますか

寺: 僕は逆に、入社したときから既に環境が全てデジタルに移行していたので、アナログの方法論というのを知らないんですよ。

具体的にはAfterEffectsを使って作業してるんですが、そういう意味ではデジタルならではの限界というのは考えたことがない

近: 「セルでの表現というのはある一定のラインよりは行けないわけで例えば先ほどの空気感の話もそうだし、セルは透明に見えてもセル色というのがあって、重ねることでその効果がどうしても出てしまう。

デジタルはそういった限界はないのでいくらでも突き詰められるのだけど、今度はどこでやめるかという問題が出てくる。

ここ数年でアニメ業界にデジタルワークが浸透してきたのは本当はコストダウンのためのものだったのだけど、逆にコストアップになってしまっているのが現状です

太: その辺についてはDTPも同じようなところがありますね

質 : テレビと劇場の画面との違いというのがあったが、観るときにどの画面で観るのが一番いいというのはあるでしょうか

近: 100%これというのはないです。

僕らは作るときに、業務用モニタをPCの横においてD/Aコンバータを間に入れて、色の調整をしているのだけど、その業務用モニタの他に、今家庭で一番普及していると言われている一般的なモニタも横に置いて、最終的なチェックはそのテレビを使って、この画面でどこまで観られるか、ということで調整している。

空の境界については劇場公開が前提なので、SONYのPCNの一番ハイエンドなモニタでチェックして、そのあと今度はテアトル新宿の画面でもチェックしている。

この画面だと夜の色はちゃんと出ているけど昼の色はどうなるか、とか

寺: どの画面が一番いいかという御質問についての回答としては、僕の考えでは、例えばipodで音楽を聴くとき、プリセットの設定で重低音を強くしたりとか高音を強くしたりとか自分の好みで変化させて聴くことがあると思います。

それと同じで、映像についてもヴィヴィッドな画面が好きだからヴィヴィッドにしてしまおうとか、そうやって観てもらえばいいと思っています。

もちろんその下地として一番バランスのいい絵というのを考えながら作っているのですが

太: 今回も、上映終了後の劇場で色調整をさせてもらってるんですよね

近: 夜中の新宿にスタッフみんな集まって

質 : 先ほど光の使い方ということで質問させてもらいましたが、この作品の光の効果というのがすごく独特で、よくある十字の輝線とか、そういった新海誠的な光の使い方をしていなかった。冷蔵庫を開けたときの淡い光だとか、そういった表現に、個人的には新海作品以来の新鮮な刺激を受けたのですが

寺: そういうところを見てもらえるのは非常に嬉しいですね。

セルの質感というのとはまた違う、デジタルの表現でのリアリティというものをどう考えるかということなんですが、例えば今ここでも(手振りをしながら)光源から離れれば離れるほど光の影響というのは弱くなりますし、その他に天井から跳ね返ってきた光とういのもある。

また人体というのは透明なので、強い光を受けたりすると骨が透けて見えたりもする。

そういった光を全て再現することで臨場感を出すという考え方と、絵なんだから多少嘘をついてでも綺麗な絵になればいいんじゃないかといった考え方の両方があって、その2つを考えながら一番いいと思える表現を考えるようにしています

質 : 一章と違って、二章は比較的オーソドックスなレイアウトの画面が多かったように思いますが、その中で、右上とか左上に意図的に空間を作るような構図が多かったように思う。あれはどのような意図があってのものでしょうか

近: その辺は好みだと思うよ。

レイアウトの話をすると、大体世の中本当は一点透視しかないはずなんだけど、みんな好みで二点とか三点とかやりたがるじゃない。

まなびストレートなんて三点透視の嵐なの。

これが難しくて、三点の画面の中で歩いたり走ったりするともうぐちゃぐちゃになっちゃうんだけど。

そうした意味でいうと今回の一章と二章ではそんなにレイアウトは変わってないと思う。

むしろ一番変わってるのは舞台が学校かビル街かっていうところだと思うけどね。

美術さんによっては難しいレイアウトの構図とか、特殊効果何もなしで冷蔵庫の光の表現まで描いてくれちゃうすごい美術さんもいるわけだけど

質 : 寺尾さんは会社に泊まっているというお話でしたが、大変じゃないですか

近: まあ彼に限らず今まで何度もあったことなんで。

さっき伽藍の洞のセットを組んだと言ったけど、別の作品で二段ベッドのセットが必要で組んじゃったことがあるんだけど、そこに僕と箕輪君が昔住んでたりとか

寺: あのフロア結構広くて、自転車が置いてあって乗って遊べるんですよね

近: そもそも家賃もったいなかったんでしょ?

寺: 僕、上京してきたとき2万しか持ってなくてしばらく会社に住んでたことがあったんですが、その後一回出たんですが、また戻ってきたような感じですね

近: まあ20台の頃はそれでもいいと思うよ。30台になるとつらくなるんだけど

寺: やっぱり仕事とプライベートは分けた方がいいですね



このあと、プレゼント抽選会(サイン入り台本、サイン入りポスター等)があってトーク第二部終了。

太田氏が最後に「またこういうイベントをやりたい。今度は話数がたまったところで一挙上映みたいなこともやりたい。あと今回、折角音楽を梶浦さんに担当して頂いているのだから、梶浦さんKalafinaさんをお呼びして生ライブなんて出来たら嬉しい。一回ごとにハコを大きくしていって、最終的に武道館で出来たらいいなみたいなことを言ってました。


締めはufo table作品上映会。

29日の新宿ではフタコイオルタの1話、コスモス荘の11話と最終話とテイルズオブファンタジアだったとのことだが、30日はニニンがシノブ伝の1話とフタコイオルタの11・12話、まなびストレートの2話。

近: フタコイオルタについては皆さんお好きかどうか分かりませんがイカファイヤーの回です。この回もまなびの2話もそうなんですが13000枚くらい使ってて、結構動いてます






設定やストーリーに関わるトークはほとんどなし。

監督も近藤Pもしきりに「こんな内容のトークでほんとにいいの?と繰り返すほど、細かい技術論に終始したトークでした。

講談社の太田氏は差し入れとしてVolvicをゲストの人たちに手渡していました(一日目はハーゲンダッツとトマトサンドだったらしい)。